ほんの森ブックレット “問題行動の意味”にこだわるより“解決志向”で行こう


 はじめに

 『月刊学校教育相談』誌に、私の連載が鮮烈に(?)デビューしたのが、一九九六年四月号だった。おかげさまで好評を得ることができ、連載は四年間続いた(一年間休んで、また来年度から再開となっている)。この連載は、私の人生を大きく展開させたと言っても過言ではないくらい、私自身にも多大な影響を与えた。この連載を始めて以来、それまでも心理療法とコミュニティ援助は専門としてきたわけではあるが、それまであまり馴染みのなかった「教育相談」、そして「スクールカウンセリング」という分野に、私はどっぷりとはまり込んでしまうことになった。今では仕事の七割以上が、それになってしまっている(別に恨んでいるわけではございません)。それもこれも、すべてこの連載のせいであり、佐藤編集長との出会いのせいである(別に恨んでいるわけではございません)。
 二年目と三年目の連載分は、編集されて、すでに『先生のためのやさしいブリーフセラピー』として、ほんの森出版から刊行されている。そのときも編集者の方々に申し上げたのだが、「ぜひ一年目の分を盛り込んで欲しい」というのが私の強い希望であり、ただそのときは、内容的・文体的・分量的に一冊の本にまとめるのは難しいとのことで、その話はお流れになった。しかししつこい私はその後も、「一年目の分も本にして欲しい」とごね続け、そこでこの度ようやく「では、一年目の分だけを、ブックレット・スタイルで出しましょう」と言っていただき、めでたくここに発刊と相成ったわけである。
 ここまで私が自分の書いたものの出版にこだわるのは珍しい(過去一度もない)が、もちろんその理由は単純に「面白い」からである。私は、自分の書いたものを後で読み返すこと自体あまりない(要するに、書きっぱなし)のだが、たとえ読んでも「つまんねぇの」となることがほとんどであった。でもこの一年目の連載だけは違って、何度も何度も読み返し、その度に(気持ち悪い話ではあるが)自分で書いたものに自分で笑っているのだ。まるで、自分の出演した番組のビデオを見て笑っている明石家さんまと同じである。当時の連載の雰囲気をそのまま残す意味で、本書編集にあたっては、全くと言ってよいほど連載原稿には手を入れず、そのままの形で本にしていただいた。大変ありがたいことである。
 本書の内容としては、「問題」や「症状」をどう捉えるかということにからめて、心理療法家やカウンセラーの姿勢(スタンス)というものに触れている。解決志向アプローチの具体的な記述は、後半に少し出てくるだけで、その前段階の話がほとんどである。でもここの部分が私は最も重要だと考えている。この部分さえきっちり押さえておけば、どうせ心理療法やカウンセリングのやり方などたくさんあるわけだから、なんでも好きなやり方でやっていけばいいし、自分に合ったやり方が実際一番役に立つわけである。しかし、どんな援助の方法論を採用したとしても、それを用いる側の基本的スタンスがトンチンカンな方向に向いていたとすれば、それは援助どころか、むしろ「有害」なものになりかねない。
 本書は、『月刊学校教育相談』誌の連載をまとめたものであるから、当然、教育相談に関心をお持ちの学校の先生方を読者層として書かれている。しかし、お読みいただければわかるように、この本は誰にでも読める。また誰にでも読んでいただきたい。一時間もあれば読める本だから。でも何度も繰り返し読んでいただきたい。特に、これからカウンセリングや心理療法を学ぼうとしている若い人たちには、ぜひに。やはり何事も、最初が肝心だから…。

二〇〇一年一月
                                 森 俊夫

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